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【インタビュー】スマート農業は次のステージへ ~確実に、そして、着実に進む次世代農業~

最終更新: 2019年6月7日



【スマート農業の現在地と今後の展開】

―2年前にも本誌のインタビューでスマート農業の取り組みについてお聞きしましたが、この2年間でどのくらい進展しましたか?


2年前と大きく変わってきたところは、AIやIoT、ロボティクス、ビッグデータなどの工学分野を中心に、さらに技術が進んできたことです。農業技術を工業分野とうまく組み合わせるのは、ロボティクスや機械化の一部を除き、これまでなかなかできなかったのですが、こうした先端技術がようやく農業に融合できる状況になり、スマート農業の研究開発がさらに進みました。


たとえば、数年前は「2018年の自動走行トラクターの市販化に向けて取り組む」という高い目標を掲げていましたが、すでにクボタから自動走行トラクターが試験販売されるなど、これまでの研究成果が世の中に出始めています。自動走行トラクターが最も象徴的な例ですが、これ以外にも、ドローンによる農薬散布のほか、水田の水管理を自動化するシステム、ドローンによるセンシング技術を用いて稲の生育状況を測定し、必要な箇所にだけ適量の施肥を行うといったサービスもすでに始まっています。


このように、水田作を中心に農作業の最初の段階から収穫、出荷まで、大幅に省力化や効率化できる機械やシステムなどのパーツが、この2年間に出そろってきました。



―スマート農業という言葉が一人歩きし、ICTを活用してもその成果があまり見えていないという声をたまに聞きますが。



そうですね、パーツがようやく出そろったところですので、今後それらを上手く組み合わせて農業経営の中でどううまく活かせるのかを実証する段階に入っていると思います。


いま研究開発が進んでいるのは水田農業です。中山間地域であるとか、施設以外の園芸作物や果樹はまだまだこれからなので、今後はそういった分野にもICTやAIを取り入れたスマート農業を推進していく必要があると認識しています。なかなか難しい課題ですが、チャレンジしていきたいですね。



―スマート農業のモデルで参考にしている海外の例はありますか?

たとえば米国では、データに基づく栽培管理などのサービスがかなり普及していますし、大規模土地利用型の農業ではトラクターなどの自動操舵システムの導入も進んできています。この分野では日本も海外と遜色のないレベルで研究、実装を進めています。


一方で世界的にも、先ほど述べた中山間地域や果樹などに対応した研究はほとんど報告されておらず、空白領域となっています。そのような分野に関しては、日本独自でこれから研究開発に取り組んでいく必要があると思っていますし、日本発のスマート農業技術を世界に展開していけるチャンスでもあると考えています。



―スマート農業の普及で日本の食料自給率にも変化が訪れるでしょうか?

自給率はあくまで消費者の選択の結果という部分が大きいと思われますので、スマート農業の普及だけで自給率が上がるということは直接的にはないかもしれません。他方、スマート農業の普及により、品質がより良くなるとか、作業が省力化・効率化されて農産物の価格が下がれば、国産を選んでいただく方が増える可能性は十分にあると思います。


現在日本の生産力が落ちている原因の1つとして、人手不足や農家の高齢化があります。せっかくミカンを作っていても、収穫してくれる人がいないので収穫できず、生産量が伸びないという話を聞きます。そういったこれまで機械化が難しかった作業が、先端技術によりカバーできるようになれば生産力も高まります。


また、さまざまな技術やノウハウに関連したデータを現場に使えるようになれば、新規参入してきた方でも、さほど時間がかからずに熟練者並みのことができるようにもなりますし、夏の暑いときでも除草ロボットが作業をしてくれるようになれば、若い人が「じゃあ農業をやってみよう」ということにも繋がってくると思います。



【農業ビッグデータの活用について】

―昨今、AI をはじめビッグデータの活用が盛んになっていますが、農林水産省では、ビッグデータの活用についてどのような取り組みをされていますか?


農林水産省では、農業者がデータを使って生産性の向上や、経営の改善に挑戦できる環境をつくるために、データの連携や提供機能をもつ「農業データ連携基盤」(通称:WAGRI)の構築を進めています。「WAGRI」とは、「輪・和(WA)」と「AGRI」の造語で、農業に関する様々なデータを連結させ、民間を中心とする各種サービスに繋げていくというものです。


―「WAGRI」とは具体的にどのようなものですか?

農業現場における生産性の向上や作業の効率化をさらに進めるためには、データを十分に活用できる環境を整備することが不可欠ですが、現在、データやサービスの相互連携がなく、さまざまなデータが散在し、せっかくの有用なデータを活かしきれていないという現状があります。そこで、いろいろなシステムのデータをうまく繋げられるようにしたのが、「WAGRI」であり、「連携」、「共有」、「提供」の3機能をもたせたデータプラットフォームとして整備を進めています(図1)。


図1

現在、気象、農地、地図、センサ、生育予測、土壌、そして統計といった各データをいろいろなところから提供していただき、「WAGRI」を介してAPI 方式で繋ぐことで、これらのデータを使いたい農機メーカやICTベンダーに利用いただき、農家へのサービス向上に活用してもらいます(図2)。


2019年4月には本格稼働できるように現在は運営体制をはじめ、さまざまな検討を行っているところです。「WAGRI」の活用により、農業データを使ったサービスの向上が図られるのではないかと期待しています。


図2

―農家の方にはどのようなメリットがありますか?

たとえば、農業者がいろいろなベンダーから受けたサービスのデータを産地単位で共有することで、産地の技術力の底上げを図ったり、ブランド化の取り組みに繋げることも可能となります。


コメですと、1人で頑張っても40~50作分のノウハウやデータしか経験値として活用できませんが、それが、産地の農業者が協力することで、1年でその数十倍、数百倍のデータを共有することが可能となります。ビッグデータ化することで、その産地に適した精度の高い栽培予測システムや病害虫発生予測など、さまざまな応用も考えられます。



【スマート農業の普及について】

―農林水産省ではスマート農業を普及させるためにどのような活動をされていますか?

全国で説明会を行っています。まずスマート農業というものをご理解いただき、実際に活用していただけるように普及に向けた取り組みを進めたいと思います。まだまだ浸透が足りないところはありますので、われわれは何回も現場に出かけ、説明をしていく必要があると思っています。



―スマート農業に参入する企業や機器を購入する農家の方への助成金などはあるのですか?

研究開発については、研究開発予算が農林水産省にもありますし、内閣府が中心となり関係省庁横断的な取り組みとして実施している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)もあります。また、現場に導入可能な機械やシステムなどについては補助事業の対象とするなど、政策的な支援を行っています。


―農業高校や農業大学校において、農業経営者に必要な教育や、スマート農業の活用といったことを教えるべきではないかという声がありますが。

おっしゃるとおりで、これからはそういう知識を身につけたうえで農業経営を行う必要がありますね。そうでないとやはり良い経営はできないと思います。これからは農業高校や大学のカリキュラムにもそういうものが組まれていくと思います。またそうならないといけないと思っています。


―日本のスマート農業を強くしていくために必要なことは何だと思われますか?

他の産業も同じですが、新しい技術を積極的に経営に取り入れることが重要だと思っています。農業の生産には、気温、湿度、土壌、品種など多くの変動要因が絡むため、長年農業者の経験や勘に頼らざるを得ない部分が大きかったのですが、それが今では技術の進歩によりさまざまなデータが容易に取得でき、またそれらを統合して分析することも可能になってきています。


これらをうまく使い、民間の方々がより良いサービスを農業者に提供し、なおかつ使いやすい形で経営に取り入れられるようになれば、誰でも高度で精緻な農作業が可能となり、経営の向上も図られます。


また一方で、AIやロボティクスの技術と農業技術が融合し、これまでにない機械や装置が開発されることで、作業負担の大幅な軽減や作業の効率化もさらに進みます。この2つを組み合わせ、新しい農業の姿を作っていくことができると思っています。



【さいごに】

―最後に、農業に携わる方々にひとこと

説明会を開催すれば多くの方々に来ていただけますし、TVや雑誌でも多く取り上げていただき、確実にスマート農業の盛り上がりを実感しています。本格的な実用化に向けてさらに努力していきたいと思っています。


農業が将来に向かい発展していくためには、新しい技術をうまく取り入れることが大事です。「Society 5.0」や「第四次産業革命」と言われているように、現在農業分野も大きな「転機」の節目にあるという気がしています。過去を紐解けば、農耕文化が始まり、化学肥料の発明や、緑の革命に代表される品種改良、稲作の機械化体系の普及などの大きな変革がありました。現在、AIやICTなどの技術によりさらなる省力化や効率化が行えるようになるだけでなく、これまで人間ができなかったことも可能になりつつあります。


たとえば、センシング技術により、人間の目では識別できない葉色の変化で生育状況が把握できたり、ドローン撮影や画像処理で広範囲の病害虫の診断が一瞬で可能となってきています。また、さまざまなデータを収集・解析することで、その年の気象条件に合わせたどのような作業をいつ行えばよいかや、病害虫の正確な発生予測と対応策もアプリを通じて指示が来る時代が来るはずです。まさに「農業版Society 5.0」の世界が見えてきています。


そういった技術を経営の中に取り入れていくことは、農業経営において大きな武器となるはずです。農家の方々には、これらの新しい技術動向について興味をもって学んでいただければと期待しています。われわれ国としても、その後押しができるように精一杯取り組みを進めてまいります。


―ありがとうございました。


※本インタビューが掲載されている『スマート農業バイブルⅡ』は下記URLよりご購読いただけます。

https://www.smartagri360.com/product-page/sa-bible2

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