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【対談:渡邊智之×岩佐大輝】日本の農業の進むべき道~農業の現在と未来を語る~

最終更新: 2019年6月7日



現在、わが国の農業は就農者の高齢化問題や後継者不足などさまざまな問題が山積しており、今まさに大きな変革が求められています。

そこで、ICTを活用して農業の活性化を推進している日本農業情報システム協会(JAISA)理事長 渡邊智之氏と、「ミガキイチゴ」というブランドを生み出しイチゴビジネスに構造変革を起こしたカリスマ経営者 農業法人GRA の代表取締役 岩佐大輝氏に、これからの日本の農業の未来を切り開くキーワードとなるであろう、「スマート農業」「海外展開/知的財産権」「農産物のブランド化」について語ってもらいました。



【スマート農業はイシュー ドリブン(Issue Driven)で成功する!】



渡邊 いま、私がもっとも重要だと思っているのは、岩佐さん世代の人たち、いわゆる「次世代農業者」といわれる人たちをどうやって育成していくかが重要だと考えています。スマート農業というICTを活用した農業は、高齢者の方たちはもちろんですが、それ以上に、次世代の農業者に向けてもっと推進していく必要があるのだと思います。


岩佐 そうですね。現在の農業の問題は、労働生産性があまり良くないことですね。働いても一定の所得が割に合わないので、若い人はなかなか入ってこない。そのため、ますます高齢者だけになっていくという悪循環になっています。作業効率も含め、生産性を上げないとどうにもならないですよね。たとえばイチゴの場合、宮城県のわれわれの周りでは、1時間当たり時給換算して700円位しか稼げていないのが現状です。


渡邊 いま新規に農業を始める若い方たちの中には、ICTを使う農業が“かっこいい”から、という理由で入ってくる人が意外と多いです。


岩佐 たしかに入りが“かっこいい”というのはアリだと思いますね。


渡邊 農業高校や農業大学校を卒業した方たちは、従来の農業は学んできますけど、経営的な観点やICTの使い方などは学んでいません。ですので、農業高校や農業大学校などでは、今後農業経営を含め、スマート農業についても教えてほしいなと思っています。


岩佐 そうですね、それは大事なことだと思います。やはり、結局はどうやったら儲かるかが最終的に重要だと思っていて、たとえばスマート農業を行うことで、農業者の所得がその地域の平均の所得水準を最低でも上回るような状況を作っていかないといけないですね。


特にスマートという意味でいうと、テクノロジードリブン(Technology Driven)という言葉がありますが、テクノロジー主導の技術や製品はあまり良くありません。自分たちにはこういう基礎的な技術があるから、これを農業に転用できないかという取り組みでできた製品の方が感度の良いものになると思います。



渡邊 ICT 企業がやると、テクノロジー主導になりがちですよね。


岩佐 テクノロジー ドリブンではなく、イシュードリブン(Issue Driven)という課題解決主導ということが大事で、たとえばスマート農業バイブル(2016年初版発刊)に掲載している(株)笑農和さんの水田の灌水システムなんかはとても素晴らしいと思います。使っているテクノロジーは、水位センサ、水門の開閉装置、そして通信デバイスといった特別なものは使っていませんが、まさに農業者のイシュー ドリブンから始まっているシステムです。このような、イシュー ドリブンを意識した製品やシステムがどんどん出てくると、スマート農業がもっと浸透するのではないでしょうか。


渡邊 やはり実際に農業の現場で働く人たちと直接やり取りしていくことが大事ですね。農家の方と接することでその精度が上がっていくと思っています。現場を知らないで農業日誌アプリを作ったという会社も最近は出て来ていますが、そういったものでは絶対に役に立ちませんし、売れませんよ。


岩佐 イシュー ドリブンに対するメーカと現場の感度の違いもあると思っていて、たしかにこれを使えば問題解決はできるけれども、それには何百万円という設備が必要だったりします。でも何百万円という設備を入れて解決できる数字ってこれだけなの? ということがありますから。


実際にGRAでも実験でロボットを作ったりするのですが、1台当たり何千万円もするわけですよ。それを導入したとしても削減できる幅なんてそんなにないので、補助金でパイロット版を作ったとしてもその後が続かないということが多い。これはスマート農業にありがちな問題点であり課題でもあると思います。


渡邊 先ほど(株)笑農和さんの水田の灌水システムの例がでましたけど、本誌に掲載されている(株)ネットカメラさんの厩舎に取り付けるカメラは、最近爆発的に売れているようです。このシステムも従来からある技術を畜産用に応用にしただけのものですが、このようなものがまさにイシュードリブンなんですね。



【海外展開と知財(知的財産権)について】



渡邊 御社ではいま海外展開されていますが、海外で作っているけれど日本の匠の農業技術で栽培する、いわゆるMade by Japan として展開しているわけですよね?


岩佐 そうです。匠の技とある程度ICTで再現するようなシステムを海外にもっていってセンシングする展開は、まさに今やっていることです。


渡邊 海外で現地の人が日本の技術を使ってやる。それは理想型だと思いますね。いつも思うのですが、日本では日本で作るMade in Japanが大事だといわれますけど、実はそこではなくて、日本人が考えた手法やテクノロジーで作っていること自体が日本のプレゼンスになっていると思っているのです。

でも、輸出も含め海外展開する際のさまざまなリスクもありますよね?


岩佐 海外で展開するには、知財(知的財産権)というリスクが常にあります。農業知財の保護はすごく難しいですね。


渡邊 岩佐さんのところではどのような取り組みや対応をしているのですか?


岩佐 農業知財にもいくつかあります。まず品種、そしてノウハウ、いわゆる作型、特許になっている技術などです。植物って、基本的には植物片さえあればクローンでどんどん増やせてしまいますから、物理的に完全に持ち出しを防がないと知財流出は免れません。その証拠に、いま中国には日本のイチゴの品種はほとんどがそろっていて、日本で品種登録されていないような最新の品種すらあるのです。


たとえば、ソフト的防御として品種登録がありますが、お互いの国が成熟していて交渉や契約が通用するようならよいですが、少なくともわれわれが想定している知財流出リスクのある国が、そこまで日本の知財を自国内で保護するとは限らない。その意味で品種流出は今後も続くと予想されます。



それでも本格的に防御するためには、植物片の管理を厳しくするなど最低限の部分はやるしかありませんし、GRAでは海外での特許、商標登録あるいは知財登録を進めていて、われわれが外に出している国ではすべて商標権を取得しています。とはいえ、さっそく盗まれていて、もう大変ですよ。渡した瞬間にどこかの会社が同じような箱を作って売っているわけですから(笑)。海外に輸出する量はそんなに多くはないので、それを見つけたからといって訴訟費用とかを考えると……という感じですね。


渡邊 実際に、「夕張メロン」と称する完全な偽物の青肉メロンがあるようですよ。


岩佐 本当ですか!? それは知りませんでした。いま日本からの農産品に関する輸出は、実はほとんどが香港です。しかし、現在その香港のマーケットが飽和状態になってきて、先がない状況なのです。


渡邊 香港への輸出は今でも右肩上がりなのですか?


岩佐 農産品の輸出はそうですね。イチゴなんかは去年の冬、「あまおう」が日本よりも安かったですから…。そういうわけのわからない逆転現象が増えました。


渡邊 日本から輸出しているものの方が安いわけですか?


岩佐 そうなのです。なぜそういう現象が起きるかというと、たとえば1パック250円位で市場が余っているときにバンバン投げ売りするわけですよ。投げ売りしたものを買参権をもっている中国系の八百屋が買い、数%だけのマージンを乗せてすべて航空便で送るのです。しかも一番安い海外のエアラインを使うと、ロジスティクスのコストを入れても日本よりかなり安い。そのため、香港での買値が1パック500円のときに東京の大丸に行くと850円。そういう現象がいま起きています。


ですので、輸出者にとって、輸出は全然儲かっていないのです。外貨を稼ぐという意味では、いまインバウンドが伸びているので、観光農園で稼いだ方がよほどいいかもしれませんね。


渡邊 日本でやって、外国人を呼んだ方がいいということですね。


岩佐 そうです。外貨を稼ぐという方法として考えたら、外にもっていくよりも来てもらった方が日本の技術も流出させず、美味しいものを食べていただくことで「三方良し」である気がします。輸出だけが答えではないし、輸出に必ずしも頼ることはないのではないかと思います。



【農産物のブランド化について】



岩佐 国内ではデータ農業やICT農業が本格的にスタートしてまだ10年くらいですよね?


渡邊 そうですね。現場に浸透しだしたのはここ4、5年でくらいではないでしょうか。


岩佐 データ農業、ICT農業というのはとにかくデータを収集し、PDCA(Plan, Do, Check, Action)を繰り返すことでスパイラルアップしていくのが最も重要で素晴らしい部分だと思うのです。弊社では、ミガキイチゴを一緒に作る生産者には情報をすべてオープンにしています。その人たちが作る、われわれも作る、そしてデータを持ち寄る。できるだけ多くのデータでPDCAを回した方がうまく行くという考え方です。


私は、生産ノウハウなどはどんどん共有すべきだと考えています。なぜなら、一作作るのに1年以上かかるものを1人でやっていたのでは、10年やっていても10回も作れないのですから。


渡邊 そのとおりですね。私は、さらにそれを産地やブランドごとにやるべきだと思っています。ブランドを名乗る以上は、地名ではなく、クオリティを担保してほしいのです。たとえば、魚沼で作られるコシヒカリはすべて魚沼産コシヒカリになっていますけど、魚沼産コシヒカリはこういう食味でこういう水分量で、といったスペックがあり、そのスペックに該当しないものはたとえ魚沼エリアでできたものであっても魚沼産コシヒカリと名乗ってはいけませんよ、ということです。


いま私は各地域でブランド化を支援しているのですが、そこで「ブランド化は名前を売ることではないですよ」とよく言います。ブランド化のための予算が取れると多くの方はカタログを作ったり、幟を作ったりといったことをしますが、そうすることがブランド化ではないからです。自分たちの作物を明文化し、きちんと作り方を確立していくことが本当の意味でのブランド化なんだと思っています。


ミガキイチゴ

岩佐 ブランドというとデザインのことだとよく誤解されるのですが、そうではなく思想や考え方が大事なのですよね。私どものミガキイチゴは、ミガキイチゴとはどういうものかが一語一句、言語で定義され、作り手や世間一般にオープンにされています。パートの方も含めて作り手側もユーザー側もその定義を知っていて、両者が同じ言語で話せるというのが、おそらく農産品ブランドを作るひとつの方法だと思っています。


いろいろなコンサルタントに依頼し、デザインだけをよくしてブランドになるかというと、形は一瞬よいのができたとしても、そこに込められた思想が不明なので、ブランドとしての底力が生まれないことになります。


渡邊 あと、「ここで穫れたから」というブランドの作り方も、そろそろ変えていかないといけないのではないでしょうか。土地の名前によるブランド化で問題なのは、たとえば魚沼産コシヒカリは魚沼の面積以上には絶対作れないじゃないですか。ビジネスという面から捉えた場合、そうした上限ができしまうのはおかしいし、もったいないですよ。

GRA ではどのようなビジネスの仕組みを構築してブランド化しているのですか?


岩佐 私が農業を始めたとき、その道40年の大ベテランの方と一緒にスタートしました。彼に作り方を教えてくれといったら、イチゴ作りはイチゴと会話しながら覚えるものだ、俺に15年ついてこられれば分かり始めるといわれました。これは今の若い農家には理解できないだろうと思いましたね。そして、産業として定着させるには、この方法では続かないだろうと感じました。ですので、匠の技をクイックに学び、いかに再現性をもたせるか、この2つが課題だと思ったのです。


そこで私どもは農業の新規就農支援ビジネスをスタートさせたのです。まず頑張って寮を作りました。寮には新規就農生を住まわせ、1年間、病害虫防除や収穫、栽培、灌水設備の管理などすべてを学んでもらいます。1年間勉強し、私が卒業証書を手渡すと、彼らはイチゴのハウスを建て始めます。建てるときの技術や資金調達の支援、経営開始のサポートなどをすべてわれわれが行います。GRAはいま単体でもけっこう大きな規模ですが、今年すでに新規就農者がGRA本体規模を上回るところまで伸びています。


このように、今の日本の農業がもつ課題に挑戦する1つの方法が農業のフランチャイズ化です。就農をはじめる若い人の大きな不安は技術とお金ですから、その2つをGRAがカバーしてあげることで、彼らもどんどんスタートが切れるわけです。実際、若い人ががんがん独立していて、しかも彼らはミガキイチゴの生産技術を学ぶわけですから、独立したらミガキイチゴの生産農家になれるのです。さらに多くの人がたくさん作ることでブランドの認知度が上がるだけでなく、さまざまなデータがビッグデータとして蓄積されていきます。GRAではこういったビジネスを行っています。


渡邊 地域ブランドで縛るブランド化よりも正しい姿でしょうね。場所に紐づかないブランドという意味で、ミガキイチゴがDoleやZESPRIの日本版になりつつあると私は思っています。日本どころか世界中どこで作っても、その技術を使っている以上はミガキイチゴなんですからね。



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渡邊 農業と一言で言ってもとても幅が広いのですべては語りつくせませんが、今日はとても大事な面白いお話が聞けたと思います。岩佐さんありがとうございました。


岩佐 ありがとうございました。


岩佐 大輝 氏

■岩佐 大輝(いわさ ひろき)

株式会社GRA 代表取締役CEO

1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、現在日本およびインドで6つの法人のトップを務める。

2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1,000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。

著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』、『甘酸っぱい経営』、『成功する農業』がある。


渡邊 智之 氏





■渡邊 智之(わたなべ ともゆき)

日本農業情報システム協会 理事長

1993年富士通株式会社入社。宅内交換機、宅内電話機の開発に従事、その後新規事業開拓部門へ異動し、医療・動物医療・農業に関するイノベーション創造に関与。「スマート農業ソリューション」の開発を主導。

2012年より、農林水産省において農林水産現場の情報化推進担当。

2014年に、ICTやIoT、AI など「スマート農業」の利活用促進、人材の育成を目的とした「日本農業情報システム協会(JAISA)」を設立し、同協会の理事長を務める。農林水産業をICTで支援し、安心・安全で高付加価値な農林水産物の物流などにより、イノベーションを起こし、さらには新たな職業や新たな雇用を生むことで、地域の活性化や地方創生に貢献することを生業としている。

著書に『スマート農業のすすめ』がある。

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